料理の万能選手「日本酒」の役割 |
芳醇な香り、深い味わいやこく・・・日本酒は飲んで美味しいだけでなく、旨味を加えて風味を良くする、素材の臭みを消して味わいを良くするなど、その特性を生かして調味料としても幅広く使われています。煮物は勿論、焼き物なら酒焼き、蒸しものには酒蒸しと言った具合に、あらゆる料理に欠かせない存在。プロの料理人は調味料としての日本酒の魅力を熟知していて、実は隠し味として日本酒をたっぷり使っていると言われています。家庭でも、その良さを知って上手に使えば、いつもの惣菜に深みや奥行きが加わって、料亭顔負けの一流の味に変身します。 |
●日本酒はどんな調味料とも合わせて使える最高の味付け役 日本酒の味や香りは熟成によってもたらされたものです。普通、半年から1年ほどで熟成しますが、これによって刺激臭が消え、味に丸みと厚みが出るのです。 熟成中に日本酒中に生成される成分は約200種類といわれています。主な成分である水、アルコール、グルコースを除くと、コク味を付けるペプチドやグリセリン、酸味のコハク酸や乳酸、うま味のグルタミン酸を中心とするアミノ酸類などいずれもごく微量の成分ですが、これらが日本酒の味、香り、色を構成しています。 調味料としての日本酒は、これらうま味や香りの成分をバランスよく含んでいることから、オールマイティといってもいいほど幅広い用途を持つ、いわば「調味料の王様」といえるものです。白身魚の蒸し物のように淡白な素材を料理するとき、味噌や醤油のような強く主張する調味料ではなく、うまみ料として日本酒が使われるのは白然なことなのです。 多量の塩や砂糖を使えない料理はあっても、日本酒が使えない料理はほとんどないといってもいいほどです。ワインが西洋料理にしか使えないのに対し、日本酒は日本料理に限 定されることはなく、中華料理にも洋風料理にも使える懐の深さがあります。 ●旨味を加えて風味を良くする名演出家 調味料としての日本酒の最大の特徴は、素材を生かしながらうま味をプラスするところにあります。魚の加熱に日本酒を使うのも、魚や肉の臭みを抜くとともに、日本酒のうま味成分を素材にしみ込ませるという目的があるからです。 和え物や酢の物など、アルコールは邪魔だけど洒の風味を生かしたいという場合、日本酒を鍋などに入れて火にかけ、アルコール分を飛ばしてから用いる「煮切り洒」という手法もあります。こうすることで、特に酢の物の酸味をやわらげ、素材の味を生かすことができるのです。 ぜひ試していただきたいのが、スーパーやコンピニのできあいのお総菜。レンジで加熱するとき、日本酒をちょっと振りかけると、風味が増して、本格的な味に変わります。 ●材料の臭みを消し、やわらかくする優れたテクニシャン 日本酒に含まれるアルコールには、魚の生臭みの成分であるトリメチルアミンを蒸発させる働きがあります。そのため、魚を蒸す、照り焼きにする、潮汁など吸い物にするなどの場合、魚の生臭みを日本酒が取り除いてくれるので、うま味がいっそう引き立つのです。 また、煮ているとき、日本酒は醤油や味噌といった他の調味料と一体化して、文字通り「香味一体」の関係が生まれるのです。 さらに、アコールは肉や魚などの組織を軟化し、一方ではたんばく質の変性を促進して熟凝固を早めるため、やわらかく、しかも歯ごたえのいい食感が生まれます。魚の蒸し物をするときに日本酒を加えると、魚の表面が乾かないようにするとともに、水気を与えて火の通りをよくする効果があります。しかも酒の風味がプラスされてよりおいしく蒸し上がります。 ●同時に使う他の調味料の効果を最大限に引き出す働きも 日本酒には、同時に使う調味料の調味効果を最大限に発揮するという働きもあります。これはアルコールの作用によって、他の調味料が肉や魚の身の中に浸透しやすくなるためです。 たとえば魚を煮るとき、日本酒と塩を合わせた汁で煮れば、魚を日本酒だけで煮る、あるいは振り塩をして水で煮る場合と比べると、魚の身の中にしみ込む塩の含有量ははるかに多くなるため、少量の塩で、しかもうま味が加わったおいしい煮魚が出来上がるというわけです。 |
こんなにある日本酒を使った伝統的な調理法 |
魚の臭みをとる。魚を柔らかくする。素材の旨味をひき出す・・・プロの料理人は、調味料としての日本酒の特徴を知って、料理を最高の状態に作り上げます。さかのぼれば平安時代にすでに飲用の日本酒とは別に、料理用の日本酒があったとされるほど、日本酒は料理の隠し味として使われてきました。日本酒を使った伝統的な調理法を知り、家庭料理に応用すれば、料理の腕は確実にアップします。 |
●酒蒸し 日本酒を使って蒸すのでこの名がありま。材料は、はまぐり、あわび、白身の魚、貝類など。貝類は「酒出し」といって、日本酒と煮出し汁とを同量くらいにし、塩味にして蒸し煮にします。魚は後述する酒塩をして蒸します。あわびも洒塩を入れた湯で10分間くらい茹でてから洒塩を振りかけて蒸すと、やわらかくおいしくなります。 ●酒煎り 魚介類や鶏肉などの生臭みやくせを除き、日本酒の風味を移すための調理法です。 鍋に材料と日本酒少量を入れ、汁気がなくなる程度に煎りつけます。 ●酒塩 文字通り、少量の塩で味をととのえた酒のこと。下処理として材料を漬け込んだり、焼き物の仕上げに塗ると、味がととのい、上品な仕上がりになります。 魚の切り身を洒塩に浸しておいてから焼くと、味と焼き色がいちだんと冴えてきれいに仕上がり、身も締まって一層おいしくなねります。 また、小鍋に酒塩を入れ、魚介類やきのこなどを加えてさっと火を通したり、串打ちしたイカに酒塩をかけてさっと焼き、そのあとウニを塗る、酒塩につけて蒸すなどいろいろな用途に使われます。 ●酒煮(酒塩煮) たっぷりの日本酒を使って煮ること。味つけは塩だけで、日本酒の風味を最大限に生かす調理法です。醤油を使う場合は、ごく少量に控えて。 ●煎り酒 日本酒に梅干しを入れて、弱火でゆっくりと煮詰めたもの。煮切りみりんや淡口醤油、かつお節、焼き塩などを加えることもあります。なますや酢の物に酸味の味つけをするときや、白身魚やエビなど、淡白な刺し身のつけ醤油代わりに用いると、味がすっきりと引き立ちます。 ●酒八方(酒塩八方) だしに日本酒を加えたもので、主としてくせのある材料をあっさりと炊く場合に用いる八方だしの一種です。 八方だしは、薄めの味に煮炊きするときに用いる、だしの分量が多い合わせだしのこと。「四方八方」に使えるということからこの名があります。一般には、だし八に対してみりん一、醤油一の割合で合わせ、ひと煮立ちさせて作ります。材料に応じて、日本酒、砂糖、塩などで味を加減します。 ●すっぽん仕立て 多量の日本酒を用いた吸い物の仕立て方をいいます。すっぼんをはじめ、オコゼやコチなど、くせのある魚に用いられます。また、すっぼん煮といって、たとえば鶏肉と焼豆腐を、日本酒を主に、淡口醤油、みりん少量を加え、落としぷたをして煮立たせないように弱火でじっくりと火を通す調理法もあります。 ●玉酒 日本酒と水を合わせたもので、一般的には同じ割合で合わせます。魚を洗っで臭みを取るときに使います。また、振り塩をしでしばらく置いた魚を漬けたり、冷凍魚などをこの玉酒の中に漬けて解凍します。こうすると魚のうま味が逃げないからです。「玉」は、多摩川の多摩をもじったもので、水の意味。「玉洒に漬ける」とか「玉酒で洗う」と言い、主に関東で使われる料理人言葉です。 |
日本酒を使った料理の裏技・隠し技 |
旨味や香りの成分をバランス良く含み、臭みをぬく作用がある調理の魔術師「日本酒」素材をより美味しくしたり、保存に一役買うなど、毎日の料理作りに欠かせない存在です。知っているといないとでは大きく差がつく日本酒の賢い活用法。 |
●芯のあるご飯は日本酒で直す 水加減の失敗などで、炊けたごはんに芯が残ったら、米4.5カップに対して、大さじ1杯の日本酒をふりかけ、よくかき混ぜてから再スイッチ。こうすると、芯が取れ、ほどよい水分を持ったおいしいごはんに。 これは二度炊きしたときの臭みを日本酒の香気成分が抑えておいしく炊き上げるため。さらに糖がごはんに甘みを与えてくれるので、古いお米を炊くときも効果的です。 ●冷やご飯、冷凍ご飯もふっくら 冷やごはんを茶碗に入れ、日本酒を手でパパッと振りかけてレンジで加熱。これだけで炊きたてと同じふっくらごはんに仕上がります。凍ったごはんも同様にします。 ●炊き込みご飯、雑炊、炒飯の仕上げに 炊き込みごはんや雑炊、炒飯などは、仕上げに鍋肌から日本酒を回しかけます。すると風味がぐんと増して、プロの味に。 ●インスタントラーメンに日本酒 インスタント・ラーメンがよりおいしくなるって知っていましたか。火を止める寸前におちょこ1杯の日本酒を入れます。アルコールの消臭作用が麺の油臭さを消し、アミノ酸やグルタミンソーダなど日本酒のうま味成分がスープの味にまろやかさをプラスして、とてもインスタントとは思えない一品に。カップラーメンに少量加えてもグッド。 ●焼きそばは麺を炒めたら日本酒をひと振り 人気メニューの焼きそば。ひと味違うおいしさにと思ったら、麺を炒めてから、日本酒を少量振りかけます。こうすると麺がふっくらとしてきます。最後にソースを回しかければ、いつもよりランクアップした焼きそばに。 ●魚を焼くとき振りかけると味よく 魚を焼くとき、塩を振る前に日本酒をひと振りしておくと、臭みがとれて、香りよく焼けます。冷凍の魚や魚介類を解凍したあとも日本酒を振りかけてから調理すると、冷凍庫の臭いもなくなり、おいしい魚に変身。 ●古い干物は酒を振りかけて焼く ちょっと古くなり身が硬くなった干物は、日本酒に浸すか、日本酒を振りかけると、やわらかく、しかも干物独特の臭みもやわらぎます。古い干物は水分が少なく表面が乾いているため、霧吹きなどで日本酒をかけ、中火でじっくり仕上げると、焼き上がりふんわり。 ●生鮭は日本酒に漬けてから冷凍保存 生の鮭の切り身1切れに日本酒小さじ1、塩少々を振って20分ほど置き、水気を拭き取ってから1切れずつラップに包んで冷凍。これで2週間はおいしく保存できます。 ●えびの生臭みは日本酒で除いて エビは背わたと殻を取り除き、日本酒を振りかけて、水気を拭き取ってから冷蔵庫へ。少量の湯に日本酒と塩をまぜてさっとボイルしてから冷味しても。 ●残った鶏肉にはまず日本酒を振りかける 鶏肉は傷みやすいので、すぐ料理しないのなら、日本酒を振りかけておきましょう。持ちもよくなり、味もよくなるので一石二鳥。鶏の洒蒸しもおすすめです。日本酒と塩を軽く振り、耐熱容器に入れて電子レンジでチン。臭みも消え、冷蔵庫内で1週間は保存できます。 ●殻付きの貝は酒蒸しにしてから冷凍保存 安いときにたくさん買ってしまった殻つきのアサリなどは、砂抜きをしたあと洒蒸しにし、冷めてから汁ごと冷凍すると、月の持つ香りも閉じ込められ、うま味も逃がしません。むき身の場合も洒蒸ししてから冷観を。加熱することで、生で冷凍するより日持ちします。 ●酢のききすぎた料理をマイルドに 酢の物やドレッシングに、ほんの少し日本酒を加えるだけで、酢の角が取れて、味がまろやかになるのです。塩や酢をきかせすぎてしまったというときも、憶てずに日本酒を入れると、味の修正にもなり、風味もよくなります。 ●日本酒たっぷりで美味しい豚しゃぶ 豚のしゃぷしゃぶは、牛肉とは違ったおいしさがありますが、牛肉と同じやり方では豚肉のうま味を十分引き出せません。そこで、湯にたっぷりの日本酒を注ぎ、沸騰させてアルコール分を飛ばしたら、豚肉を入れます。これでうま味のあるおいしい豚しゃぶに。また豚肉のすき焼き、膝痢の煮物などを作ってみると、日本酒の「裏わざ」ぶりがはっきりと分かります。 ●梅干し作りに日本酒が活躍 おいしい梅干しづくりに日本酒は欠かせません。梅を土用干しにするとき、日本酒を藩吹きでスプレーします。梅のつやがよくなり味に深みが増します。日本酒のアルコール分がかびを防いでくれるので、塩分は少なめにしても大丈夫です。 ●鰻の蒲焼きも日本酒でぐんと美味しく 買ってきた蒲焼きが、時間がたって硬くなったときは、日本酒を入れた鍋を強火で沸とうさせ、火をつけてアルコール分を飛ばします(煮切り酒)。この中に蒲焼きを1分ほどつけてからタレをまぶせば、ホカホカのやわらかさが戻ります。 ●吸い物に日本酒を入れると美味 「このお吸い物、何だかちょっと味が足りないな」と思ったら、日本酒を大事じ1〜2杯入れてみてください。たったこれだけのことで日本酒の風味とほのかな甘味が加わり、おいしいお吸い物に変身します。もちろん味噌汁に入れても味がいっそう引き立ちます。 ●硬くなったチーズもやわらかく 冷蔵庫に置き忘れて硬くなったチーズ。でも大丈夫。チーズの表面に日本酒をひとはけ塗って2〜3分置くと、アルコールの成分がチーズの脂肪分を溶かすためほどよいやわらかさになり、風味もアップします。 ●鷹の爪は日本酒に浸して柔らかくする きんぴらなどに使う鷹の爪は、乾燥しているので切りにくいもの。そこで、ヘタを切り取り、中の種を取り出しておいてから、少量の日本酒に浸しておきます。こうするとやわらかくなって、輪切りにすると切りやすくなります。漬けた日本酒も料理に加えれば、風味よく仕上がります。 ●冷や奴にひと振りでコクが増す 冷や奴を食べるとき、濃口醤油だけではちょっと風味に欠けると思ったら、日本酒を加えるとコクが増してワンランク上の味に。鍋で日本酒を沸かしてアルコール分を飛ばす「煮切り洒」にしたものを使って。 ●日本酒で減塩即席漬け 即席漬けに日本酒を加えると、風味もよくなり、塩の量が半分ですむのでとてもヘルシー。きゅうり100gを袋に入れ、ここに塩小さじ4分の1と、火にかけてアルコール分を飛ばした「煮切り酒」を適量入れます。袋のきゅうりをよくもんで一晩置けばできあがり。塩半分でOKなのは、日本酒が塩分の浸透を手助けしてくれるため。またアミノ酸、糖が甘さやうま味を増してくれます。 ●煮干しを日本酒に漬けて美味しいだしに 煮干しはコクがあるので、味噌汁のだしにぴったり。おいしいだしを取るには、頭とはらわたを取り除いてから、日本酒少々を入れた水に半日ほど漬けておきます。寝る前に準備すれば、翌朝にはおいしいだしが取れています。 |
日本酒造組合中央会「料理の魔術師日本酒の活用テクニック」より引用 |